ISEKADOの研究開発

ISEKADOは、ビールの歴史にイノベーションを起こす、研究開発型ブルワリーを目指します。

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■ 研究者としての思い

私たちが目指すのは、100年後の世界のビール史に1ページを刻むことです。
ビールの世界をもっと面白く、もっと多様にする。それがISEKADOのビジョンです。

ビールの歴史を振り返れば、真の変革は常に科学技術の大きなイノベーションとともに訪れてきました。ビール純粋令が制定された時代、そこには大麦・ホップ・水という原料の記述はあっても、酵母が主役だとは誰も知りませんでした。しかし、レーウェンフックの顕微鏡によって微生物が可視化され、パスツールが発酵と腐敗の微生物起源を解明し、酵母が「見える存在」となり、やがて単一酵母の単離技術が誕生します。そこから、ビールの品質は全く別物になったのです。さらに、冷蔵・冷凍技術が真夏でも5℃・10℃の温度管理を可能にしたとき、ビールの品質は飛躍的に安定しました。

私たちは、その歴史の系譜の先に、新しいイノベーションを加えることを目指しています。2012年、伊勢の椎の樹液から野生酵母「KADOYA1」を単離、その香気特性をGC/MS分析で明らかにしました。その酵母の特性を生かして開発したビール「HIME WHITE」を発売。地域の野生酵母の単離から市場価値の高い商品の創出まで一貫する取り組みを行うことができました。その後も博士・修士を持つ自社研究者と、三重大学・東京大学・島津製作所等との協働によって、新たなイノベーションの可能性を探索し続けています。

そして現在、CRISPR-Cas9による酵母ゲノム編集やGC/MS・LC/MSによるメタボローム解析など、精密な酒質設計を可能にする研究に挑んでいます。pptレベルのチオールなど微量成分までも定量化し、香りや味覚を分子レベルでコントロールする醸造の未来が見えつつあります。

450年の角屋の営み、150年の味噌・醤油醸造で培った発酵文化。その「本物をつくる精神」と酵母への敬意が、最先端科学と結びつき、次の100年のビール史を変えると信じています。

代表取締役社長 博士(学術)
鈴木 成宗

■ 私たちが大切にしていること

ISEKADOの原点は、社長・鈴木成宗が自らを呼ぶ「発酵野郎」という言葉に込められた、微生物への深い愛情と敬意、そして科学的アプローチによる確かなモノづくりです。

良いビールには、安定した品質が求められます。そのためには職人の勘に頼るだけでなく、数値データに裏付けられた再現性のある製造プロセスが不可欠です。

新しい価値を生み出す創造性と、狙いを形にする科学的構築力——この2つが、世界基準に届くビールを生み出します。博士・修士を持つ研究者たちが、好奇心と自由な発想で酵母に挑み、世界中の大学・企業・ブルワリーと知見を共有する。その姿勢こそがISEKADOの研究開発の源泉です。

1. 野生酵母の探索と開発

伊勢神宮別宮・倭姫宮周辺の椎の樹液から始まった野生酵母プロジェクトでは、自然界のアルコール発酵由来の香気を手がかりに、地元に縁のある特別な酵母を探索しました。

採取した菌叢から香気生産性を持つ酵母を単離し、ITS領域シークエンス解析により新規の S.cerevisiae と同定。「KADOYA1」と名付けられたこの株は、GC/MS分析により既存の商業用酵母とは明確に異なる香気プロファイルを示すことが証明されました。高級脂肪酸エチルエステルが生み出す「エステリー」な特性は、ISEKADOだけの個性です。

この研究により、2017年に社長の鈴木成宗は三重大学大学院で博士号を取得。経営者自らが最前線で研究に取り組む姿勢は、研究開発型ブルワリーとしての礎となりました。KADOYA1は「HIME WHITE」として製品化され、国際品評会で6冠を獲得しました。

2. 下野工場研究室

下野工場の研究室には、アルコライザー、DO測定器、リアルタイムPCR装置など、大手醸造メーカー研究所に匹敵する水準の分析機器を整備しています。

この設備投資の背景には、「データなくして革新なし」という信念があります。酵母の声を聞き、発酵の真実を見つめ、品質の頂点を追求するためには、最高の道具が必要なのです。

博士号・修士号を持つ研究者を中心に、小規模ブルワリーとしては異例の研究環境を構築し、ここで得られた知見は製品設計や品質保証に直結しています。

3. オープンイノベーション戦略

産学連携による基礎研究の深化

三重大学との共同研究から誕生したKADOYA1プロジェクトは、ISEKADOの研究開発の原点です。現在は東京大学大学院での酵母機能解析、三重県工業研究所での醸造プロセス最適化など、基礎から応用にわたる幅広い連携を展開。アカデミアの先端知見と現場プロセスデータを融合し、論文発表レベルの成果を醸造現場に実装しています。

企業連携による技術革新

島津製作所との協業では、GC/MS・LC/MSを用いた発酵過程のメタボローム解析を実施。東京・新橋で採取した野生酵母の低発酵力は必須アミノ酸欠乏によることが分析で判明し、培地設計の最適化で復活。この酵母は「香調」として製品化されました。
また、極微量成分(pptレベル)の寄与を定量化し、香気設計に応用しています。

国際的なブルワリーネットワーク

KADOYA1は米国Culmination Brewingにおいて「Amaterasu」として醸造され、Far Yeast Brewingとの協働では100年以上使用された醤油樽を用いたサワーポーターを開発。国際的技術交流により、酵母利用の新たな可能性を探求しています。

4. 次世代醸造技術への挑戦

CRISPR-Cas9による酵母ゲノム編集は、従来の自然変異選抜や最適化フェーズから、設計主導フェーズへの移行を可能にするブレークスルーです。ターゲット遺伝子の改変により、香気生成経路や発酵特性の精密制御が可能になります。

同時に、バイオトランスフォーメーション技術によるホップ利用効率の向上や、チオール放出能を有する酵母の開発など、官能品質とサステナビリティを両立する技術開発も進行中です。

野生酵母探索から始まったISEKADOの研究開発は、いまや酵母を設計し、香気・味覚・持続可能性を統合した次世代醸造の創出段階へと進化しています。

■ 研究論文リスト

伊勢志摩地域から採取された香気性野生酵母によるビールつくりについて
著者:鈴木成宗(有限会社二軒茶屋餅角屋本店)、矢野 竹男(三重大学大学院地域イノベーション学研究科)、金澤 春香(有限会社二軒茶屋餅角屋本店)
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GC/MSを用いるビール中代謝成分の網羅測定による品質評価法
Quality Evaluation of Beer by Total Analysis of Beer Metabolites with GC/MS
著者: 武守佑典 (島津製作所), 東祐衣 (島津製作所), 坂井健朗 (Shimadzu Scientific Instruments,Inc.), 荒川清美 (島津製作所), 佐々木基岐 (二軒茶屋餅角屋本店), 鈴木成宗 (二軒茶屋餅角屋本店)
資料:島津評論 2021
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https://www.shimadzu.co.jp/products/tec_news/srv77_34/report03.html
文献清酒酵母菌株で醸造したビールはユニークな清酒様フレーバーを持つ
Beer Brewed with Sake Yeast Strain Has Unique Sake-like Flavors
著者: Maruyama Hironori (Mie Prefecture Industrial Research Institute, Tsu, Mie, Japan), Yamamiya Takuma (Nikennchjayamochi-kadoyahonten Co Ltd, Ise, Mie, Japan), Ozawa Atsuki (Mie Prefecture Industrial Research Institute, Tsu, Mie, Japan), Yamazaki Eiji (Mie Prefecture Industrial Research Institute, Tsu, Mie, Japan), Suzuki Narihiro (Nikennchjayamochi-kadoyahonten Co Ltd, Ise, Mie, Japan)
資料: Journal of the American Society of Brewing Chemists 2024
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/seibutsukogaku/103/8/103_103.8_398/_article/-char/ja/